「情報も揃っている。ロジックも通っている。なのに、決めたあとも頭が止まらない」
この状態は、能力不足ではありません。
多くの場合、判断そのものではなく、判断を支えている “前提” と “感覚” がズレたままになっています。
この記事では、経営者の意思決定が重くなる典型パターンをほどきながら、
結論として 「違和感=問題」ではなく「前提の再点検サイン」として扱う方法をお伝えします。
読後には、判断の質を上げるために「何を整理すればよいか」が具体的に見えるはずです。
なぜ「正しいのに動けない」が起きるのか
経営判断が重くなるとき、多くの社長は「もっと情報を集めれば解決する」と考えます。
けれど実際は、情報が増えるほど決められなくなるケースも少なくありません。
ここで重要なのが、判断には2つのエンジンがあるという前提です。
- 論理(ロジック):根拠・比較・採算・リスク
- 感覚(センス):納得感・違和感・腹落ち・怖さ/嫌さ
この2つが同じ方向を向いていると、判断は軽い。
逆に、論理がアクセルを踏み、感覚がブレーキを踏むと、前に進めない。
専門用語で言えば、これは認知的不協和(頭の理解と内面の感覚が噛み合わない状態)に近い現象です。
たとえるなら、
カーナビ(論理)は右に行けと言っているのに、路面(感覚)に薄い氷が張っていて足がすくむような状態です。
ナビは正しい。
でも、路面を無視してアクセルは踏めません。
「問題」ではなく「前提」がズレている
ここで整理したいのは、違和感の正体です。違和感は、次のどちらか(または両方)で起きます。
- 1.前提の更新漏れ
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以前は成立していた前提が、環境変化で変わっているのに、判断だけが昔の前提で進んでしまう。
(例:採用市場、顧客ニーズ、社員の価値観、資金繰りの見通し) - 2.感情の未処理(未完了)
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「怖い」「嫌だ」「悔しい」「守りたい」などの感情が“処理待ち”のまま、判断を先に進めようとしている。
ゲシュタルト療法で言えば未完了が残った状態です。
未完了があると、思考は何度でも同じ場所に戻ってきます。
つまり、経営判断が重いのは「社長が弱いから」ではなく、判断を支える土台が揺れているからです。
判断が重くなる場面に共通する構造
経営の現場で繰り返し起きるのが、次の3つの「重さの型」です。
ここでは“データ”として、現場での観察から抽出した再現性の高いパターンを提示します(数字ではなく、構造のデータです)。
- 1)意思決定疲れ(Decision Fatigue)
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判断の回数が増えるほど、判断の質が落ちたり、先延ばしが増えたりします。
「大きな決断」ではなく、小さな決断の積み重ねが社長の判断力を削ります。- 例:採用、評価、価格、クレーム、資金、役員調整…が同時多発
- 結果:決めること自体が嫌になり、決断が“鈍る”
たとえるなら、スマホのバッテリーです。派手なアプリより、バックグラウンドで常に動いているアプリが電池を食う。経営も同じで、表に出ない判断が社長のエネルギーを奪います。
- 2)説明不能の違和感(言語化の遅れ)
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「なんか嫌だ」「言い切れない」があるのに、理由を作ろうとしてしまう。
すると、判断が“論理の鎧”で固められ、後から反動が来ます。- 例:会議では通せたが、帰宅後にどっと疲れる
- 結果:決断後に何度も考え直す
- 3)関係性コスト(誰にも話せない)
-
社長は立場上、相談相手が減ります。
相談できないと、判断が脳内で循環し続けます。
これが「決めたのに終わらない」の主因になります。
「正しいのに進めない」社長の典型ケース
※守秘のため、複数の事例を統合した典型例として書きます。
ある社長は、新規事業の撤退判断をほぼ決めていました。
数字は赤字。改善の見込みは薄い。撤退が合理的。ここまでは明快です。
ただ、決めたはずなのに、夜になるとまた考えてしまう。
「撤退は正しい。けれど、なぜか落ち着かない」
整理していくと、論点は“事業”ではありませんでした。
社長の中に残っていたのは、次の未完了でした。
- その事業に乗ってくれた社員への申し訳なさ
- 「自分の読みが外れた」ことへの悔しさ
- 役員にどう説明するかの怖さ
- “撤退=失敗”という自己評価の痛み
つまり、社長が止まっていたのは「撤退の是非」ではなく、
撤退に付随する感情と関係性でした。
そこでやったのは、答えを出すことではありません。
撤退の判断を支える前提を、言葉にして整え直しただけです。
- 何を守るための撤退なのか
- 誰に、どの順番で、何を伝えるのか
- 失敗の定義を、どう更新するのか
- 次の一手を「再出発」として定義できるか
その結果、撤退の決定は変わりませんでした。
変わったのは、社長の身体感覚です。「これでいい」が腹に落ちた。
判断は“正しいか”だけでなく、“納得できるか”で終わる。ここがポイントです。
違和感整理でやってはいけないこと
違和感整理は、やり方を間違えると逆効果になります。注意点を3つ挙げます。
- 注意点1:違和感を「根性」で潰さない
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違和感を無視して決めると、後から必ず回収が来ます。
回収とは、迷いの再燃、説明の破綻、周囲の抵抗、体調不良などです。
違和感は“邪魔者”ではなく、前提点検の通知です。 - 注意点2:「正解探し」に戻らない
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違和感整理は、正解を出す作業ではありません。
“正解”を探し始めると、情報集めが止まらなくなり、判断がさらに重くなります。 - 注意点3:一人で完結させようとしない
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頭の中だけで整理しようとすると、循環が続きます。
外に出して言語化することで、思考が初めて前に進みます。
まとめ:結論の再確認
判断が正しいのに動けないとき、問題は「判断」ではありません。
多くの場合、判断の前提と身体が感じている違和感のズレです。
- 違和感は、能力不足ではない
- 違和感は、前提点検の通知
- 整理すべきは「問題」ではなく「判断を支える土台」
- 外に出して言語化すると、判断は自然に軽くなる
もし今、少しでも
「決めたのに、まだ考えている」
「情報は揃っているのに、止まっている」
そんなテーマがあるなら、答えを出す前に、まずは前提を整える。
その一手が、次の判断を静かに強くします。

